051 携帯電話051:携帯電話「何で鳴らないのよ」 美希はベッドの上に座り、枕をかかえながら手に持った携帯電話に向かってそう呟いた。 彼とケンカしたのは昨日。 付き合って3ヶ月仲良くやってきた二人だったが、ほんの些細なことでケンカになった。 そのとき一言”ごめんね”と言えば良かったのに美希は言わなかった。 その時は自分が悪いと思えなかったからだ。でも・・・ 自分の家に帰り冷静になってみると自分の言葉が足りなかった事に美希は気が付いた。 メールで”ごめんね”と打とうかと思ったが、メールでケンカになりそうで恐くてメールが出来なかった。 彼とは高校も違うし、次の日会って”ごめんね”と言う事も出来ない。 「どうしよう。」 美希は手に持った携帯をじっとみつめると”はー”と大きなため息をついた。 ケンカをして2日目。 授業が終わり放課後になると美希は携帯のメールと留守電をチェックした。 しかし彼からはメールも留守電もなく、美希は”はー”と大きなため息をついた。 「私が謝らなきゃダメだよね。」 右手に持った携帯電話に向かい美希はそう呟いた。 ”でもどうやって謝ろう・・・昨日はごめんね。かな?それとも私が言葉が足りなかったみたい。かな?” 美希は学校から駅に向かう最中頭の中でどうやって謝るかをずーっと考えていた。頭がぐるぐる回るくらいに。 ”やっぱり今日電話しようかな・・・” そんな事を考えながら美希は駅の改札を入り電車に乗った。 電車を待つ間もぐるぐると頭の中で考えが巡っていった。 ”でも電話に出てくれなかったらどうしよう。電話に出てくれても仲直りできなかったらどうしよう” 美希はそう思うと少し気持ちが暗くなった。 自分から初めて告白して付き合った今の彼。 友達と一緒に遊びにいったときに友達の彼の友人というつながりで初めて彼を知った。 いまどき珍しく、将来の目標をしっかりともっていて美希はそんな彼を好きになった。 告白する日はドキドキして授業の内容が頭に入らなかった。 学校が違うので、授業を早退して彼の学校まで行き彼を待ち伏せした。 彼は美希のことを覚えていなかったので美希が声をかけた時に不思議な顔をしたが美希の話しをちゃんと聞いてくれた。 美希の告白に彼はしばらく考えると”いいよ”と言ってくれた。 そして美希と彼は付き合う事になった。 「それなのに」 美希はまた”はー”と大きなため息をつくと、電車を下りて改札へ向かった。 考えれば考えるほど悪い方向へと考えてしまう。 「ダメだなぁ、私。」 そう言って上を見上げると美希は家へ向かって歩き始めた。 電車に乗っている間も彼からはメールも電話も無い。 反応のない携帯電話を右手に握り締める。 携帯を手に持っていると彼から電話がかかってくるように思えるのだ。 美希の家までは駅から20分ほどの距離だ。しかし駅から歩いて15分、全く携帯に反応は無い。 「よし!」 美希は意を決すると携帯電話のアドレスから彼の番号を表示しそして・・・・電話をかけた。 悪い方向ばかり考えてしまう自分に美希は自分で我慢ができなくなった。 ”彼が出たらごめんねって言ってそれで仲直り。それでお終い。簡単な事” そう心の中で考えながら携帯から聞こえてくるコール音を美希はドキドキしながら聞いていた。 あとちょっとで家に着く。家族の前ではこんな話しは聞かれたくない。だから美希は家に着く前に電話する事にしたのだった。 ”1コール、2コール・・・” 美希は心の中で数えながら”お願い出て”という気持ちでコール音を聞いていた。 そして5コール目。 「もしもし?」 という彼の声が聞こえてきた。 美希は慌てて 「もしもし、美希だけど。昨日の事謝りたいの。今から会えない。」 と携帯電話から聞こえる彼の声に向かって小さな声で言った。 すると彼は 「今どこにいるの?」 と聞き返してきた。美希は不思議に思ったが 「もうすぐ家に着くけど何で?」 と聞き返した。すると彼は 「じゃあ今日会えるよ。目の前を見て。」 と言った。美希が家の前を見るとそこには制服姿の彼が立っていた。 美希は彼の姿を確認すると。彼の元に走り、抱きついた。 そして泣きながら 「昨日はごめんなさい」 と彼に謝った。彼は笑いながら美希の頭をなでて 「いいよ、俺も悪かったし。これで仲直りだね」 と言った。すると美希は”うん”と小さく答えたあと、涙を拭くと 「家、寄ってく?」 と彼に聞いた。その誘いに彼は笑顔で答えた。 その彼の笑顔で初めてのケンカはやっと終了。 そして二人は手をつないで美希の家へと入っていったのだった。 |